キリスト教 信仰と理性論 星加弘文

Overview

キリスト教信仰と理性認識の関係を扱う「信仰と理性論」全8編、137コンテンツからなる論文のページです。

第一部 信仰論

Chapter 1 倫理意識とキリスト教      
Chapter 2 キリスト教への接近を妨げる諸見解
Chapter 3 使徒的信仰の成立        
Chapter 4 信仰対象イエスの獲得      

第二部 信仰と理性論

Chapter 1 「信仰と理性論」の方法論    
Chapter 2 信仰と理性の多対多関係     
Chapter 3 信仰と理性の境界        
Chapter 4 超越的認識の可能性       

第一部 信仰論では、初めに、本論論旨の妨げとなる考えを退けるための二つの予備的議論(Chapter 1、Chapter2)を行い、その後、「史実と信仰」としての信仰と理性論が述べられます。イエスについての知識と私たちの信仰の関係を問い、以下の2点を含む4つの主要な論点に解決を与えるキリスト教信仰モデルが提示されます。

  第一部 信仰論 主要論点

 (1) 現代における信仰成立の必然性 Chapter 3

 (2) 現代におけるイエス認識の可能性 Chapter 4

Chapter 3では、現在の教会においても憶測としてしか語られていない初代教会の信仰形成の謎を、使徒たちが宣べた「ケリュグマ」の分析から明らかにしました。イエスに接していた使徒たちの信仰が理解できるものとなることで、彼らから時間的、文化的に遠く隔たった私たちにとって、キリスト教信仰がどのように可能であるのかが明らかになります。

第二部 信仰と理性論では「信仰と理性」哲学と神学」内在と超越」としての信仰と理性論が扱われます。Chapter 1~3で、超越概念の叙述法について考え、Chapter 4で、カント『純粋理性批判』の概念である「超越論的」に関する新たな解釈を示して内在と超越の境界を考察します。

  第二部 信仰と理性論 主要論点

 (1) キリスト教哲学の方法論 Chapter 1~3

 (2)「現象と物自体の分離」思想の克服 ― Chapter 4

第二部 Chapter 4では「カント問題」を4つの議論によって論駁します。「カント問題」とは「現象と物自体の分離」を帰結させる『純粋理性批判』が、キリスト教の「啓示」という考え方を不可能とした問題で、これによってプロテスタント教会は、現在、カントの考えを受けいれる「主流派」と、拒否の立場をとる「保守派」に分裂しています。前者は奇跡を語らず、後者はそれを信ずべきものとしていますが、いずれの派もこの問題を解決していません。

当論考はキリスト教についての危機意識を動機とし、この意味での読者対象として、教会教職者、大学等神学部教師と神学生を想定するものですが、キリスト教に関心を持つ方であればどなたもお読みいただくことができます。
第一部 信仰論」は、筆者のキリスト教体験を交えたエピソードやエッセイを多く含んでおり、キリスト教への道案内としてもお読みいただけます。論文のため平易な内容ではありませんが、読解に必要となる知識についてはそれぞれの箇所で解説を用意して、読者に事前に多くの知識を求めるものとならないように配慮しています。

当論考はキリスト教哲学/神学として数十を超える成果を持ちますが、その中から幾つかを紹介します。タイトル下に配した「段落選集」と共に、当稿への取り組みへのきっかけとしていただければと思います。

(1) 信仰の事実依拠性」と「倫理の非事実依拠性」という二つの聖書解釈原理の提示(第一部 Chapter 1 補論Chapter 2 - Argument 1-3

(2) 初代教会の信仰を成立させたイエスの復活に関するペテロの解釈が、ルカにより複数の使徒ケリュグマに等しく保存されていたことの発見(第一部 Chapter 3 - Succession

(3) 史実と信仰」問題を解く決定的な結節点の発見(第一部 Chapter 3 - Ricercare

(4) 信仰が成立するために必要である史的イエスと、成立した信仰が正しいものであるために必要とされる史的イエスの区別の提示(第一部 Chapter 4 - Approach

(5) イエスが奇跡を行っていたことの福音書の奇跡記事に依らない論証(第一部 Chapter 4 - Consideration 4

(6) イエスを失った後に信仰を確立した使徒と、イエスを持たない現代の我々が似ていることの洞察による、使徒と同じ信仰を現代の我々に可能とする二段階信仰成立過程の発見(第一部 Chapter 4 - Review

(7) 使徒時代と使徒後の時代におけるそれぞれのキリスト教信仰成立構造の確定(第一部 Chapter 4 - Review

(8) 信仰によってではなく、理性によって信仰を叙述・解明すべきことの根拠の提示(第二部 Chapter 1 - Section 3

(9) 直観主義論理において「否定」が複数の定義を持つことの確認による「内在と超越」および「現象と物自体」という古典論理的排中律二分法認識観の見直し(第二部 Chapter 2 - Hard study 5-4-4, 5-5-4

(10) カントの「現象」概念が複合概念であることから、その否定をとるとド・モルガン律によって3種類の「物自体」が帰結することの発見と、これら「または物自体」と「かつ物自体」という物自体の多重性による「現象と物自体の分離」思想への論駁(第二部 Chapter 4 - Section 4-5

(11) 現象と物自体の分離」思想と『純粋理性批判』が別種の思想であることの洞察による「現象と物自体の分離」思想の克服(第二部 Chapter 4 - Section 12

以上のように、当論考は未解決となっている神学およびキリスト教に関わる哲学の諸問題を、単に論じるのではなくそこに解決を与えようとするものです。これにより教会が確信をもって現代に提示できるものを、まず自分自身において発見あるいは再発見することを願います。

筆者の神学的立場は宗教改革時の信条を継承するプロテスタント保守派ですが、現代主流派神学が持つ「史的イエス」およびカント哲学に関する問題意識を共有しています。福音書に対するキリスト教外および主流派神学からの問題提起に耐える信仰のあり方を、理性的に脆弱であるこれまでの保守派神学とは異なる方法で示し、伝統的・福音的・聖書的信条を保持します。

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