第二部 信仰と理性論 | 星加弘文 |
『純粋理性批判』における「超越論的」立場とは、第一に「主観」と「対象」に関する超越論的立場を採用することで、現象と物自体はその帰結として導かれる概念である。
第二にそれは、「構成主義」と「実在論」の複合としての超越論性であり、「超越論的分析論」までの前件肯定式型の観念論的論述と、「超越論的弁証論」での後件肯定式型の実在論的論述の両者を採用するところの超越論性である。
これら二つの超越論性は「現象」および「物自体」概念を使って一つにまとめることができる。
第一の超越論性である「主観」と「対象」は、カントの理性批判の考察対象だが、これを現象と物自体との関わりで表現すると、認識主観は現象のみを認識し、物自体の認識には関わらないので、「主観」は「現象」にだけ関係しているといえる。
一方、「対象」は、それが「物自体の現れ」(B61)としての現象であることを主張するのが「第二版序文」に示された『純粋理性批判』の構想であり、「対象」という経験概念は、当初から物自体の仮定の上に配された概念、つまり実在論の概念といえる。そのため「対象」は「現象と物自体」の両者に関係している。
第二の超越論性はカントの理性批判の「方法」に着目するものだが、まず「構成主義的方法」においては「現象」概念のみを構成することができる。伝統的な観念論では構成しえるもののみが存在するとされる。
それゆえ構成主義的方法が実行される「超越論的分析論」までにおいて、物自体概念は述べえず、それは「限界概念」
一方、「超越論的弁証論」での「実在論的方法」においては、後件肯定式型の論証により仮定を認めることができるので、「物自体」は「現象」に比べて困難な概念ではなく両者とも認められることになる。
後にみるように、カントは「第三、第四アンチノミー」の定立言明では、対象を物自体とみなし、反定立言明では現象とみるということを行っている。
以上のことから、超越論性に関して次の構図が成立する。
それゆえ、『純粋理性批判』におけるカントの超越論性とは、「現象のみ」を認める立場と、「現象と物自体」の両者を認める立場へのまたがりとしてまとめることができる。
この超越論理解は、従来、「現象」と「物自体」という観点から捉えられてきた『純粋理性批判』の基本解釈に取って変わられるべき重要性をもつと考える。すなわちカントが採用する超越論的視点を「現象」と「物自体」の概念を用いて表現するならば、その超越論性とは「『現象』と『物自体』」ではなく、「『現象のみ』と『現象と物自体』」なのである。
以下に、この新たな超越論理解が「超越論的弁証論」における「アンチノミー論」にどのような整合的理解を与えるかを確認する。それによってこの解釈の正しさが確証されるものと思う。
その後、この新たな超越論理解が現象と物自体についての「触発論」をどう導くかを示して、『純粋理性批判』が述べている内在と超越の関係についての正確な理解を得たいと思う。